リチウムイオン電池の劣化診断について(詳報)_No.23

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※「リチウムイオン電池の劣化診断」については、コラム第14回(リチウムイオン電池の劣化診断について)でもご紹介しておりますので、ご興味のある方はそちらも併せてご覧下さい。

当社ではリチウムイオン電池のリアルタイム劣化診断について研究を進めており、下記の通り定期的に学会等で発表を行っております。

  • 平成27年電気学会全国大会, 7-057 (2015.3.24)
  • 平成27年電気学会電力・エネルギー部門大会, P021 (2015.8.25)
  • 平成27年度神奈川県ものづくり技術交流会 (2015.10.29)
  • 平成28年電気学会全国大会, 7-047 (2016.3.18)
  • エネルギー・資源学会35回研究発表会 (2016.6.7)

これらの発表を背景として当コラムでは、
1.リチウムイオン電池の劣化のメカニズム
2.劣化症状の発現プロセス
3.当社のリアルタイム劣化診断「過渡的差電圧法」
についてご紹介します。

1.リチウムイオン電池の劣化のメカニズム

 リチウムイオン電池の劣化とは、充放電曲線の形状が変形する事です。例えば、新品の電池と容量80%まで劣化した電池との間には、図1の様な充放電曲線形状の違いが出てきます。

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図1.新品電池と容量80%劣化電池の充放電曲線形状の違い

では、この違いはどのようにして生じるのでしょうか。ここでは大きく分けて2つのメカニズムが関わっています。

(1)過電圧(分極)の増加

リチウムイオン電池には内部インピーダンス(抵抗)があり、充電や放電で電流を流すと余分な電圧が発生します。イメージとしては図2の様になります。

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図2.リチウムイオン電池の過電圧(分極)

 この内部インピーダンスは劣化によって増加し、その結果として過電圧も増加します。

(2)プラトー領域の縮小

 プラトー領域とは、充放電曲線上で電圧の変化が少ない平坦な領域の事を指します。図1の初期充放電曲線(実線グラフ)では、満充電(100%)側に明確な終点が見られないものの、概ね充電状態5%~80%程度の領域が該当します。これが、同じ図1の80%劣化モデル(点線グラフ)では、5%~60%程度と縮小しており、プラトー領域が縮小している事がわかります。このように、プラトー領域の縮小が充電末端を移動させます。

2.劣化症状の発現プロセス

リチウムイオン電池の劣化症状は、電池容量、充放電効率(電力量基準)、最大出入力電流がそれぞれ低下する事で発現します。

これらの症状は全て、前述の過電圧増加とプラトー領域縮小のいずれか、または組合せによって発現します。これから、そのプロセスについて見ていきましょう。

(1)電池容量の低下

 電池容量低下は、内部インピーダンスの増加とプラトー領域縮小の両方が相乗的に働いて起こります。実際には同時進行で劣化が進むのですが、ここでは理解の為にそれぞれ分解して挙動を説明します。

 まず、過電圧増加の影響は図3の様なプロセスで発生します。初期の電池の充放電曲線は図3の青い実線および点線で表されています。劣化によって過電圧が増加すると、充電曲線は上に押し広げられていき、赤い実線のようになります。このとき、リチウムイオン電池は安全の為に充電上限電圧というものが設けられており、一定の電圧に到達すると充電が停止する機構になっています。そのため、赤い充電曲線は青い充電曲線よりもより低い充電状態で充電が停止する事になります。そうすると、放電もこの低い充電状態からスタートする事になるので、赤い点線のようになってしまいます。こうして、過電圧が徐々に増加し、充放電曲線も青→赤→緑→紫と変化していき、それに伴って充電末端が移動し、電池容量が減少してしまうわけです。

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図3.過電圧増加による電池容量への影響

 次に、プラトー領域縮小の影響は図4の様なプロセスで発生します。初期の電池の充放電曲線は図4の青い実線および曲線で表されています。劣化によってプラトー領域が縮小すると、充電曲線の平坦な領域が短くなるので、充電末期の電池電圧の立ち上がりが早くなり、赤い実線の様になります。この時、充電上限電圧の影響で青い充電曲線よりも低い充電状態で充電が停止する事になります。そうすると、放電もこの低い充電状態からスタートする事になるので、赤い点線の様になってしまいます。こうして、プラトー領域が徐々に縮小し、充放電曲線も青→赤→緑→紫と変化していき、それに伴って充電末端が移動し、電池容量が減少してしまうわけです。

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図4.プラトー領域縮小による電池容量への影響

 このような、過電圧増加とプラトー領域縮小の影響が相乗作用し、図1のように充放電曲線が変形して電池容量が低下します。

(2)充放電効率の低下

 充放電効率の低下は、主として過電圧の増加によって起こります。ここで問題となるのはグラフの横軸と充放電曲線とで囲まれる面積の変化です。この面積は、横軸の充電状態が元々Ahの単位を持っている事から、V×AhでWhという単位の電力量を表しています。従って、充電曲線で囲まれた面積と放電曲線で囲まれた面積の比率が充放電効率になります。
 過電圧が増加すると、充放電曲線は図5左上→右上→左下へと変化します。そうすると、グラフの見た目でもわかると思いますが充電曲線の面積と、放電曲線の面積の比率が徐々に変化していき、新品で95.9%あった充放電効率が93.3%、90.7%と低下していきます。これが充放電効率低下のプロセスです。なお、充電上限電圧の影響で電池容量の低下が起こっており、このことも充放電効率の低下に影響を及ぼしています。

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図5.過電圧増加による充放電効率への影響

(3)最大入出力電流の低下

 最大入出力電流の低下は、主として過電圧の増加によって起こります。横軸を電流、縦軸を電池電圧とした、いわゆるI-V特性図を描くと、過電圧はグラフの傾きとなって現れます。図6に様々なSOC(充電状態)でのI-V特性図を示します。上段は充電電圧のI-V特性図で、左上図は新品、右上図は劣化品です。また、下段は放電電圧のI-V特性図で、左下図は新品、右下図は劣化品です。
 まず、上段の充電電圧を見てみましょう。左上図の新品では、各SOCにおけるグラフの傾きは緩やかですが、右上図の劣化品では、過電圧の増加によって傾きが大きくなっています。ここで各SOCでの最大充電電流は、グラフを大電流側(図6では右側)に延長した線と、充電上限電圧との交点になります。従って、グラフの傾きが急になると、より低い電流で充電上限電圧との交点が形成される事になります。
 下段の放電電圧も同様で、左下図の新品よりも右下図の劣化品の方が傾きが大きくなっています。各SOCでの最大放電電流は、同様にグラフを右側に延長した線と、放電下限電圧との交点になります。従って、放電でもグラフの傾きが急になると、より低い電流で放電下限電圧との交点が形成されることになります。
 このようにして、新品では図7左図の様な最大充放電電流であったものが、劣化によって過電圧が増加し、図7右図の様な最大充放電電流に低下してしまうわけです。なお、この最大充放電電流は理論的な値であり、実際には電池内部材料の大電流耐性などの特性によって総合的に判断されるものですので、注意が必要です。このようなプロセスで最大出入力(充放電)電流が低下していく事になります。

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図6.各SOCにおけるI-V特性図(上段:充電 下段:放電)

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図7.各SOCにおける最大充放電電流

3.当社のリアルタイム劣化診断「過渡的差電圧法」

 リチウムイオン電池の劣化症状のうち、電池容量と充放電効率の低下は、定置用リチウムイオン電池の収益性に相乗的悪影響を及ぼします。従って、定置用リチウムイオン電池を最適に(エコで経済的に)運用するためには、リアルタイムに電池の劣化状態を診断し、そのデータをもとに制御を行う必要があります。当社では、
 (1)特別な装置を使うことなく最小限のコストで診断する
 (2)定置用リチウムイオン電池を設置・運用しながらリアルタイムに診断する
という事を目的として、「過渡的差電圧法」というリアルタイム劣化診断法を開発しました。この「過渡的差電圧法」は、
 (1)定置用リチウムイオン電池に備わっているBMS計測データを利用する
 (2)運用中に周期的に発生する充放電パターンを利用する
という工夫によって、上記の課題を解決しながら劣化診断する手法です。具体的には、図8の様に充電上限電圧と、一定条件で20秒放電した時の放電電圧の差を差電圧(これを過渡的差電圧と呼びます)として、図9の線形関係に基づいて電池容量や充放電効率を推定するものです。この過渡的差電圧は、BMS計測データから入手する事が出来ます。また、定置用リチウムイオン電池の場合には、昼間(ピークシフト運転の場合)または快晴の日の夕方(太陽光発電電力を蓄える場合)に満充電からの放電の機会があります。従って、あらかじめ図9の線形近似式を実験的に入手しておくことで、定期的かつリアルタイムな診断が可能となります。

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図8.過渡的差電圧法の測定の概要

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図9.過渡的差電圧と、組電池容量(左図)および充放電効率(右図)の線形関係

「過渡的差電圧法」の特長としては、適用対象が単電池だけでなく、組電池全体に対して適用できる事が挙げられます。また、分散設置された定置用リチウムイオン電池の集中遠隔劣化診断をする場合には、演算式が単純であること、扱うデータ量が少ない事から、CPUや通信ネットワークにかかる負荷が低く、世の中に広まりつつあるIoTの分野に好適な手法です。

今後の学会発表等の情報は随時コラムにて公開させて頂きます。
本コラムの内容にご興味・ご質問等ございましたら、こちらよりお気軽にお問い合わせください。
本コラムの関連資料を無料でお配りしております。ご希望の方はこちらよりご請求ください。
本コラム内容を発展させた研究が、博士論文「リチウムイオン蓄電池の効率劣化診断の研究」として公開されております。

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