FFT(高速フーリエ変換)アナライザやFRA(周波数特性分析器)による交流インピーダンス測定により、リチウムイオン電池の内部インピーダンスとしてR(抵抗)やC(キャパシタンス)の成分が含まれている事はよく知られていました。無限個のRとCを使えばリチウムイオン電池のインピーダンス特性を等価回路として表現することができます1が、さすがに実用上そういうわけにはいかないため、純粋なRとCだけでなく、RとCの中間の性質を持つCPE(Constant Phase Element)や、拡散抵抗(ワールブルグインピーダンス)と呼ばれる特殊な回路成分を導入した等価回路が提案されてきました2。
このように内部インピーダンスにキャパシタンス成分が含まれている事により、リチウムイオン蓄電池は電流の流し始め、または電流の停止時の電圧挙動が直流のオームの法則(V=RI)では理解が難しい状態になります。特に電流停止時の挙動に注目し、「緩和」という名称がつけられました3,4。同様の現象は研究者によっては「過渡特性」と呼んでいます5。
この緩和あるいは過渡特性は、内部インピーダンスが時間をかけて徐々に発現する現象です。この発現するまでの時間の目安は「時定数」と呼ばれ、インピーダンス測定の時の交流周波数と関係があります。時定数1秒は約159mHzに、10秒は約15.9mHzに相当します。だいたい100mHz程度よりも周波数が低くなると、拡散抵抗(ワールブルグインピーダンス)が主体となって出てきます。従って実用上の緩和あるいは過渡特性は、拡散抵抗(ワールブルグインピーダンス)によって発現する現象であると考える事ができます。
この拡散抵抗(ワールブルグインピーダンス)と等価回路について網羅的に記述された文献の例としては、慶応大学の2013年度の博士論文6が挙げられると思いますので、ご紹介しておきます。
[1] 乾義尚, 他, 電学論B, 126 巻, 5 号, pp.532-538, 2006年.
[2] 中山将伸, 表面科学, 33 巻 2 号 pp.87-92, 2012年.
[3] S. Yata, et al, Electrochemistry, Vol.78, No.5, pp.400-402, 2010.
[4] 仁科辰夫, 他, 化学・技術研究, 5 巻 2 号 pp.217-223, 2016年
[5] 長岡直人, 電学論B, 134 巻, 7 号, pp.558-561, 2014年.
[6] 馬場厚志, ”モデルに基づくリチウムイオン二次電池の充電率推定に関する研究”, 慶応義塾大学博士論文.